ネルケ無方さん 自由・主体性 vs 機械論・決定論 2005,10,10,

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 早速のご返信、ありがとうございました。
 一つの基本的な問題があると思いますが、もし曽我さんのホームページのどこかですでにその解答が書かれているのであれば、教えてください。

 哲学で言えば「自由」・「主体性」vs「機械論」「決定論」の問題に関連しています。曽我さんがご返信の中で

 「わずかな主体性で、自分という反応を観察し、・・・[中略]・・・観察を続けることで、自分が持続的実体的存在ではなく、そのつどそのつどの縁に反応する脈絡のない無我なる現象であることが納得されてくると思います。」
 と仰いますが、問題はそのわずかな主体性です。観察し続ける「主体」もまた、「そのつどそのつどの縁に反応する現象」に過ぎないのでしょうか。そうであれば、「私」は100%自動的反応であり、自己観察もそのつどの自動的反応に過ぎないということになります。理屈上、この見方には何ら問題がなく、仏教の説く「無我」に当てはまりますが、それではわずかな主体性すら残らないではないでしょうか。そのためか、曽我さんは「100%ではないにせよ、98%が自動的反応」と仰いますが、残りの2%(=わずかな主体性?)がもし「そのつどそのつどの縁に反応する脈絡のない無我なる現象」でなければ、何なのでしょうか。まさか「変わらぬ独立自存の存在」であってはいけないのですが、自動的反応でもない独立自在の主体でもないもの、それは一体何者でしょうか。「なんと私は愚かであったことか」と気づく「私」は主体性と自由をもって自分を観察しているのでしょうか、それとも縁起に決定された無我なる自動的反応なのでしょうか。後者なら決定論に陥りやすいと思いますし、前者なら独立自在の主体を否定することは難しくなるのではないでしょうか。

合掌 無方


曽我から ネルケ無方さんへ 2005,10,11,

前略

 無我=縁起(≠決定論)と、努力=主体性の関連に関しては、正直に申して、未だ経典には考察の材料を発見できていません。
 釈尊であれば、おそらく、無記(=不毛な問いへの態度)でもって、「あなたは現に努力できるではないか。それで十分だ。無用な問いにかかずらわず、無常=無我=縁起を自分のこととして腹に落ちて納得できるように努力せよ」とおっしゃったのではないかと想像します。

 しかし、釈尊のレベルに比べるべきもない私としては、経典以外のところから材料を集めてきて、不器用にごちゃごちゃと屁理屈を組み立てるしかありません。その屁理屈の試みは、小論「無我なる縁起の現象に主体性はいかにして可能か」、また同「クオリアとホムンクルスを仏教(無我=縁起)の視点から考える」あたりです。思いつきのレベルを超えるものではありませんので、ご批判を頂いて、もう少し磨き上げるか、あるいは破棄するか、考えたいと思います。

 簡単に申し上げると、進化していない生物は、縁に応じて決定論的に反応する。主体性・努力はない。しかし、人間のような進化した動物においては、内部の縁の仕組みが発達しており、受けた縁に対して、決定論的に反応するだけではなく、さまざまに内部でシミュレーションが起こる。その際、過去の経験(長期記憶)も自動的に浮上してきて参照され、シミュレーションに影響する。結果的に、ひとつの縁に、一定の幅を持った複数の反応が可能となる。複数の選択肢の中で、ひとつの選択が行われるところに主体性が発現する。
 選択された反応は、内部の反応の仕組み(シナプスの可塑性による変化や記憶など)に蓄積され、それ以降の反応パターンに影響を残す(業)。可能な反応の幅の中で、執着によらない反応をするようにすることで、自分という反応の反応パターンを整えていくことができる(戒)。

 クオリア、ホムンクルスに関しては、一般的ではない、かなり勝手な定義づけをしていますので、それを前提に読んでいただいたほうが分かっていただきやすいかも知れません。
 クオリア:利害にかかわる縁(刺激 or 情報)をカテゴリーでとらえ、カテゴリーに応じた反応を起動する仕組み。初めは、利害に直結する縁(餌とか天敵とか)にすばやく対応するための仕組みであったが、進化につれて、抽象的部品的なクオリア(赤の赤らしさとか)も後に発達してきた。
 ホムンクルス:クオリアによって起動された反応のひとつとして、クオリアを起動した縁(刺激 or 情報)に注意を向ける働き。

 未消化な議論で申し訳ありませんが、ご意見お聞かせ下されば幸甚です。
 よろしくお願いいたします。
                            草々
ネルケ無方様
         2005,10,11,            曽我逸郎

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