佐藤 守さんより  空とは何ですか?  2001,10,7,

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曽我逸郎様

はじめてのメールです。
失礼ですが、空とは何ですか。
すべての根源である空を凡夫は意識できますか。
空は、頭で心でそれとも、無我のなかで存在するものなのですか。
頭では、原子物理学の世界
心では、無限な宇宙、あまりにも広く遠い
無我では、なにも無くなります。無我にはなれませんが。

わからない事だらけです。質問の内容に失礼がありましたら、お許し下さい。

佐藤 守


佐藤 守さんへの返事

                         2001年12月8日
拝啓

 メール拝受。返事遅くなり申し訳ありません。

 頂いた御質問からすると、失礼ながら問題の立て方を誤っておられるのではないかと感じました。

 空は「もの」ではありません。「何」でもありません。(対象化して)意識しようとしてはいけません。存在しません。

 空は、名詞として考えるべきではありません。ですから、「空は、、」とか「空を、、」といった形式で考える事は間違っています。(「そういうお前のこれまでの文章がすべて「空は、、」「空を、、」の形式ではないか」という揚げ足取りはご勘弁下さいませ。)

 では、どういうふうに考えるべきなのか。主語でも目的語でもなく、述語にしてください。考察の対象は、空そのものではなく(なぜなら「空そのもの」などないのだから)、様々な事物です。石、雲、山、虫、犬、人、富、名声、地位、五蘊、様々な執着の対象、様々な憎悪の対象、「ものがある」と捉え或るものには執着し或るものは憎悪している自分自身、そうしたすべてを観察・分析し、「空である」と知るのが正しい空の理解です。

 では「空である」とは、どういうことか? 「自性がない事」です。
 自性とはなにか? 「そのものをそのものたらしめている永遠不変の本質本体」です。
 私たちは、ものがそれだけで自足・独立して存在していると思ってしまう。それが日常における自然なものの見方です。でもよく観察するとそうではない。
 一切は、縁によって起こり、縁によって変化し、縁によって終わる、時間の中の、自性のない無我なる現象です。空と無我と縁起は、同じ事を言っています。
 中論には次のように書かれています。(三枝充悳、レグルス文庫を参考に)
 「およそ、縁起しているもの、それを、われわれは空であることと説く。」中論24-18前半
 「どのようなものであろうと、縁起しないで生じたものはない。それゆえ、実に、どのようなものであろうと、空でないものはない。」中論24-19

 ここで私の個人的な感覚を述べますと、最近実は私は、空という言葉の必要性をあまり感じなくなってきました。無我と縁起で十分言い尽くされていると思うのです。
 大乗仏教の興隆期には、おそらく無我や縁起という言葉は部派仏教の中で様々な手垢にまみれており、もう一度釈尊の汚れのない思想に戻るために空という新しい言葉が必要だったのだろうと想像します。しかし、現在では、逆に「空」の方が手垢と滓にまみれた言葉になってしまっていると思います。

 メールのはじめに「佐藤さんの問題の立て方は間違っている」と失礼な物言いをしましたが、この間違いは佐藤さんだけではなく、実は大乗の大半が陥っているのではないかと思っています。
 無我(本質実体の無いこと)や縁起(他によって起こっていること)は、名詞であれ多分に動名詞的です。それに対して、空はたやすく純粋な名詞になってしまい、結果、対象化され実体視され「もの」にされ外に立てられて、大乗の歴史全体を間違った方向に導いたともいえるのではないでしょうか。空は危険な言葉です。(かく云う私自身の「あたりまえ、、、」本文の空の説明が、外に対象として立てられた悪い見本す。)

 頂いたメールに「無我では、なにも無くなる。無我にはなれない」と書いておられますが、無我は「何も無いこと」ではありません。アートマン(=独立自存の永遠の実体)はないけれど、縁起の現象としては作用があり現象しています。腹を立てたり、悔しがったり、憎んだり、執着したり、喜んだり、威張ったり、慈悲を発し、発心を起こします。龍樹によれば、無我であり縁起しているからこそそういった様々なその時々の変化が生まれるといっています。「あたりまえ、、」本文には、風の比喩や泉の比喩、ロウソクの比喩を書きました。稚拙な比喩ですが、御一読頂ければ幸いです。

 偉そうに書きました。実の所、私自身自分の無我についてよく知っておらず、無我なる縁起の現象である私が、どういう仕組み、プロセスで、外に対象を立て、内に自己をたて、執着したり努力したりするのか、新しい科学のアプローチの仕方も参考にしながら考えることが、今の私の課題のひとつです。いつかまとめてHPに掲出しますので、また是非ご意見をお聞かせ下さい。

                              敬具
無我なる縁起の現象である佐藤守様

                 無我なる縁起の現象である曽我より

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