〜森 正夫の山歩き記録〜
第18回 大峰山(おおみねやま)1327.3m 2015.9.20
2015.9.29

 大峰山は坂城町を代表する山で、上田市の太郎山から連なる千曲川右岸山系の主峰である。左岸には大林山(1,333m)を盟主とする山々が対峙し、この2峰が睨み合う眼下を千曲川が雄然と流れている。千曲川にかかる橋の上からこれらの山々を眺める素晴らしさは格別だ。今では千曲川の両岸は家々が立ち並び田畑が広がっているが、昔の風景を想像すると原始の森が浮かび上がってくる。素晴らしく神秘的な奥深い森林をこれらの山々が取り囲んでいたのだろう。

 昨年10月に大林山に登った。次は大峰山に、と思い続けていたが機会を得ず今年に持ち越してしまった。ようやく秋の長雨が途切れた5日間の連休は晴れの予報。地元小学校の運動会や地区の敬老会などの行事が重なっているが、その合間をみて登った。

大峰山と直登西尾根 下草に覆われた大峰山頂 藪の中にある直登西尾根登山口


 大峰山への登山道は山系の縦走以外に3ケ所ある。いずれも坂城町からのもので、左側から芝峠口、直登西尾根口、右側が大久保口となっている。中でも直登西尾根コースは、いったん廃道となったが、地元の方々の努力で復活させたものであり、昔から山岳信仰の登山口として親しまれていたという。他のコースと比べて時間はかかるが、一気に標高約800mを登りきるもので歩きがいはある。私が参考にしたガイドブックによると、登山道は整備されていて不安は無さそうである。

 私の日帰り登山は、冬期を除き愛用の100ccスクーターが足になる。小回りが利き、林道や細い道にも難無く入れ都合が良い。四輪車と違い、道を間違えても、すぐ向きを変えて戻れるところが便利なのだ。

 これら登山口の起点となるのが上信越道坂城ICである。西尾根コースはICをくぐって反対側に上った道路から林道への入り口あるとのこと。しかし、これがなかなか見つからない。この道路を行ったり来たりするうちに芝峠コースと大久保コースへ行く林道は発見出来たが、本命の西尾根コースが見つからない。散歩中の地元の方に聞いて、ようやく探し当てた次第である。ここまでで40分近く要してしまった。

 登山道入口を示す標識は道から奥まったところで雑草に覆われており、登山口にあたる木製階段も藪に覆われていて全く見えない。藪の中に入ってみたが、くもの巣だらけで帽子と顔はあっという間にベタベタ状態。ちょっぴり怯んだが、せっかくここまで来たのだ。覚悟を決めて登りはじめた。

 木製階段を登りきると高速道路の鉄条網が出てくる。これに添って歩くが藪と倒木で道の判別がつきにくい。ようやくここを抜けると赤松林になる。陽が遮られて尾根道ははっきりしてくるが、人が歩いた形跡は無く、猪が虫などを捕らえたり木の根を掘った跡がたくさんあった。赤松林を過ぎるとコナラを中心とした雑木林に変わるが、道の解りづらい所がたびたび出てくる。姿は見えないが猪の痕跡はどこまでも続き、伊豆の山々を思い出した。登山道入口を教えてくれた方が「猪に気をつけるように・・・」と助言してくれた訳がわかった。しばらく登り続けると広い尾根すじに出る。ここは全体が腰から肩ぐらいの雑草と低木に覆われていて身体中に草木の穂がへばりつき、下山後にこれら全て取り除くのに20分以上を要した。ここは、左側の樹林帯に添って歩いたが登山道は全く解らない。勘だけが頼りである。しばらく歩くと細い枝に赤いテープのついたものが立っていたので間違いないことは確認できたが遠目では藪に隠れて見つからない。また多くが倒れていた。尾根が狭まってきたあたりからテープが貼られた立木が出てきたのでそれを頼りに進む。

ここからは多少きつい登りに変り尾根道も解りやすくなるが、これまでのところ標識などは全く無かった。歩いた時間からして「軍人山」や「あかじらす」などは通過した筈だが、その場所は見当もつかなかった。

 この登りに差し掛かったところで、野生動物特有の臭いが風にのって鼻をついた。立ち止まり、しばらく様子を見たところ、野太い唸り声が聞こえた。いく度か聞いたことのあるあの声だ。その唸り声は間隔をあけて発せられ、当然私に向けた威嚇である。途中で熊のフンらしきものを二度みつけた。ひとつはカラカラ状態であったが、今ひとつは生々しさが残っていた。イヤな予感が的中した形だ。

 何の景色も見えない樹林帯と藪歩きに、少々イヤ気が差していた私は、もうしばらく歩けば頂上に出られる予感はあったが、ためらいなく下山を決意した。しばらく後方が気になったが、彼(彼女)は私が縄張りから出ていくのを静観してくれたようだ。

 下山後、どうしても頂上に立ちたいという思いにかられ、大久保コースに向かった。5〜6kmに及ぶ林道は一部を除き舗装されてはいたが、道幅は細く凸凹が多い。スクーターの小さな車輪では振動を吸収しきれず、先の疲れも加わって持病の腰が痛みはじめてしまった。もう、これはあきらめる外はない。登山口は確認した。再挑戦を期して帰路についた。


補足

 9月29日、大久保コースから登った。登山道は尾根すじに出るまでは、急坂ではあるが鉄塔の管理道を兼ねているため、下草が刈り取られ、よく整備され歩きやすい。尾根上は標識がしっかりしているので迷う心配はない。多少両側の雑草が気になる箇所があるが道は比較的歩きやすい。頂上直下10〜15分程はザレた急登が続くが、ゆっくりと歩けば問題はない。ただし降りに注意が必要な所である。頂上は下草に覆われているが南側に大きく開けている。北側は樹林である。この日は晴れていたが遠望はきかず、アルプスや富士山は望めなかった。

大峰山から望む大林山 下草が刈り払われた
大久保登山口
大峰山頂から見る太郎山

 ただ、八ヶ岳、霧ヶ峰、美ヶ原などをバックに塩田平や青木村の山々の多くを見渡すことができ、上田市街や近隣の村々が広く眺められ、さぞ夜景が美しいだろうと思われた。太郎山が眼下にあり、その美しい尾根が長々と続く姿は一見に値する。

 また、先般登った直登西尾根コースからの道はひどい藪に覆われていた。背の高い樹林帯を出た後の最後の急登がこの藪歩きだったことを思うと、熊に感謝しなければならない気持ちになった。

 そうだ。熊は私を威嚇して驚かせたのではなく、ここから先は危険な藪歩きが待っていることを教えてくれたのかも知れない。熊さんありがとう。
 尾根道の途中でやはり生々しさの残る彼(彼女)のフンを見つけた。この辺を縄張りにしている熊が住みついているのだろう。


   <アクセス>
   本文を参考とする。西尾根登山口は広い畑の入口付近に小さな物置小屋が立っている。
   畑への進入路を5m程入った右側にある。よく注意して探すと登山道を示す標識が見つかるはずだ。
   近くにある牛舎へつながる林道は違うので入らないこと。





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