山崎清巳さんより 感想  2003,2,7,

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曽我様
般若心経をベースにした、曽我さんの言われる偽経、面白く読みました。
最近、二三冊の仏教関係の本を読みましたが、曽我さんの偽経より面白いのはありませんでした。
まず、好き嫌いから始めます。
論と偽経とでは、偽経の方が好きです。
論の方は、実体とか物とかモノとか、事とか現象とか、ノエマとかノエシスとかが分かりにくいこともあって、時々頭が混乱することがあります。
「関係」というコトバについて、少々説明します。アリストテレスはpros tiというコトバを使っています。prosは「〜〜へ」という前置詞、tiは「何か」という名詞と代名詞の中間のようなコトバ。これを単数や複数として使っています。
デカルトについては、曽我さんが言われているよりももう少し、重い感じがします。デカルトの考えがもとになって、それ以後の人々は、考え方が軽くなったようです。たとえば、特にフォイエルバッハなどでは、神の記号化が起こっています。少なくとも、デカルトにとっては神は記号ではありません。それとか、「神は死んだ」などと言う哲学者がいるとか、この哲学者はばかです。自分の神を殺したのですから。これは記号の神だから殺せるのです。
曽我さんも認めてあったことですが、釈迦が出家して最初に行ったのは町の中で、山ではないということについて、論理的にそうでないとおかしいと思っていましたが、このことを聞いて安心しました。ですから、曽我さんの偽経では、山に入るという方向が多すぎるような気がしました。
僕のこれは、独断と偏見ですが、曽我さんは、偽経のような文を書くのが大変上手なような気がします。
次は余分なことですが、98年の7月8月の(無我説の原段階)の前が「してていた」にミスタイプです。
曽我さんへの質問です。
般若心経のサンスクリットの文はどこで(できたらインターネットで)手に入るでしょうか。
もう一つ、「いつも化」という非常に面白い表現がありますが、これは曽我さんのオリジナルでしょうか。それともハイデッガーの「平均的日常性」のようなことと関係があるのですか。
山崎清巳


山崎清巳さんへの返事 2003,3,1,

拝啓

 メール頂戴しありがとうございます。お返事遅くなり申し訳ありません。

 ◆あたりまえ般若と小論について。
 「あたりまえ、、」を書いたときは、私の仏教理解が、踊り場と申しますか、一応固まった状態でした。それをどうやって伝えるかを課題にして書きました。論理的な言葉では気持ちに届かないと思っていましたので、なんとか共感を持ってもらえるような書き方を心がけました。
 ところがネットにあげてみると、いろいろな方からご意見をいただき、考えさせられることばかり、出来上がっていた筈の自分の仏教理解もつぎつぎ粗が見えてきました。小論は、自分の理解を深めるための思考実験というか、仮説をたてて、それを皆さんの前に曝し、ご批判・ご教授頂いてさらに深めたいと思って書いています。「あたりまえ、、」はどちらかというと伝える気持ちがありましたが、小論は自分の理解を深めるために書いているという感じです。そのため、どうしてもこなれない内容になってしまい、読みにくかったり意味不明だったり、ご迷惑をかけていると思います。すみません。
 これから先、再度自分の仏教理解が完成されたと錯覚する事があれば、また偽経を書くことがあるかもしれませんが、当分そんな事はないように思います。また、釈尊の無我=縁起の教えは、人間の自然なものの見方・感じ方から遠く隔たっており、日常的感覚を媒介とする物語的な書き方で、実体視を完全に排除しつつ無我=縁起の教えを純粋なまま書くことは、非常に難しいのではないかと感じます。もしそれをやろうとすれば、おそらくまったく新しい文体が必要で、それはそれで challenging な仕事だと思いますが、、。

 ◆山に入る事に関して。
 確かに世俗の只中で仏教を学び深め生きられたら、それに越したことはないと私も思います。ただ、やはり世俗のしがらみやら責任やらが多いと、なかなか集中できません。十分な強さと器量がある人は別でしょうけれど。私の場合は、世俗の責任を中途半端にしか果たせないと感じて、都会の会社を辞めました。しがらみがまったくなくなる筈はありませんが、それでも生活は随分シンプルになりました。釈尊も出家を薦めておられましたし、敢えて世俗にこだわって意地を張る必要もないのではと思います。

 ◆ミスタイプ
 前回の更新で修正しました。ご指摘ありがとうございます。助かります。

 ◆ 般若心経サンスクリット文について。
 検索してこのサイトを見つけました。
 http://members.ozemail.com.au/~mooncharts/heartsutra/
 サンスクリットのフォントもダウンロードできるようですし、そこまでせずともpdfとかgifでデーバナーガリ文字(「神の城」の意。城壁のように見えるので)のまま見ることもできます。
 英語、チベット語、スペイン語など、さまざまな翻訳もあります。韓国語版では、漢字にハングル文字が混ざっていましたが、韓国では、日本のように漢字のままではなく、韓国語で読み下しているのでしょうか? リンクも興味深く、般若心経の日本音読(マカハンニャ、、、)に対する英訳とか、チベット語の声明を聞く事も出来ました。

 落第生の言い訳ではありませんが、サンスクリットは、めちゃくちゃに読みにくい言葉です。まずデーバナーガリ文字を憶えばなりません。まあ、これはたいしたことではありません。文法的には、名詞は、女性、中性、男性に分かれ、それぞれ単数、両数、複数の別があり、8つに格変化します。3×8の表が女性、中性、男性それぞれ1枚ずつ、計3枚ある訳です。動詞の時制も、大過去とか半過去とかいろいろあってひどくややこしかった記憶があります。なによりいやらしいのは、単語と単語の間を大抵切らずにずらずらと繋げて書くのです。日本語でもカタカナばかりの電報って読みにくいですよね。しかも、サンスクリットでは、サンドゥヒといって前の単語のお尻と次の単語の頭が様々な法則で音韻変化し、変化した形で書くのです、繋げて。単語の語尾の変化がよく分かっていて、しかも音韻変化をよく理解していないと、単語がどこで切れるのかも分からない、辞書も引けないという状態になります。次の講読に出たくなくなる気持ちもわかっていただけたと存じます。

 で、京都の仏教書専門店、其中堂のHP(あたりまえ、、リンクのページで紹介)でこんな本も見つけました。

「サンスクリット入門 般若心経を梵語原典で読んでみる」
著者 涌井 和    発行所 明日香出版社
定価 1,800円     B5判 ソフトカバー 180ページ
解説:般若心経をサンスクリット語で読むため(だけ)のサンスクリット語文法の解説が前半、後半は小本と大本の逐語対応訳、漢訳との対応も。
 私自身は手にした事がありませんので、どんな本か分かりませんが、値段も手ごろだし一度読んでご覧になれば如何でしょうか?

 最後に一言付け加えますと、私個人的には、般若心経に対して最近批判的な気持ちが芽生えかけております。

 ◆「いつも化」について。
 「いつも化」という言葉を使い始めたきっかけは、「あたりまえ、、」で、村人達が、「いつもと同じです。なにも変わったことはありません」と答えたのを引いています。「めくるめく現象世界を固定化し実体視して退屈なものにする作用」という考えが背景にありました。
 しかし、最近、我々は、もともと動物の時からずっと現象を現象のままに見たことはなく、最初からカテゴリー化してきたのではないか、と気付きました。また、動物は自分の利害に関係するものだけに注意を払ってきたのであり、様々な感情を引き起こすもののみを意識してきたのだとも気付きました。どうやらカテゴリー化や実体視と退屈は、起源が異なるようです。詳細は、先回の更新でアップした小論「無我なる縁起の現象に主体性は、、」をご覧下さい。
 ハイデガーについては、大学の教授がハイデガー専門のような方でしたし、その講義は興味深く聞いておりました。しかし、私は不真面目ななまけものでしたので、それ以上の勉強はほとんどしておりません。おっしゃっている「平均的日常性」という言葉も記憶にありません。講義からなにか気分のようなものは感じ取っていたのかもしれませんが、、、。

 お便りありがとうございました。またご意見お聞かせ下さい。

                          敬具
山崎清巳様
              2003,3,1,        曽我逸郎


山崎清巳さんからの返事 2003,3,2,

曽我逸郎様
メールありがとうございます。
「サンスクリット入門 般若心経を梵語原典で読んでみる」
  著者 涌井 和    発行所 明日香出版社
   定価 1,800円     B5判 ソフトカバー 180ページ
 解説:般若心経をサンスクリット語で読むため(だけ)のサンスクリット語文法
は、
本を探すというサイトで見たら、ありました。
さっそく注文します。
サンスクリットが難しいことは、知っていました。
ギリシア語をもう少しややこしくしたようなもので、普通に言う三人称が一人称と呼ばれているくらいまでですが。
般若心経くらいの長さだったら、もしかしたら読めないことはないかもしれません。そうでもないかもしれませんが。
私の兄弟(他に姉二人とあに一人)の仲で、自分だけが般若心経を読めないので、いつか練習しようと思っていたのですが、これを機会に始めようかと思っています。
いろいろと勉強になりました。
山崎清巳

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