ラジオ受信機と真空

 3球式、4球式のストレート受信機等、真空管や部品をやりくりしながらラジオの組み立てに夢中になった。

 高校1年の時に作ったのが今手元に残っている下の写真の5球スーパー受信機であるが、そのあとは受験勉強のためラジオ製作はやめてしまった。

 何台も作ったので回路図の構成、部品の定数などは全部覚えてしまい、やがては図面を見ないでも組めるようにはなっていたが、当時どの程度理屈が分かって作っていたのか甚だ心もとない。

 中学生当時、回路図を見ていて最も不思議に思ったのは1本の線(回路)にどうして二つの信号が通ることが出来るのかということであった。

 例えば真空管のプレートに直流の電圧を与えるためにB電源から電流が流れ込んで来るというのは分かり易いが、その同じプレートに接続されている回路を高周波信号や音声信号が通過するという。どうしても理解に苦しむことであった。
使用真空管
   
6WC5  周波数変換、    6D6  中間周波数増幅、   6ZDH3  検波増幅、  UZ42  電力増幅、 KX12F 整流

☆真空管について
 19世紀末から20世紀初頭にかけて行われた2極真空管、3極真空管の発明によって今日の通信、放送などの分野が飛躍的に発展した。
 エディソン効果
  
エディソン (Thomas Alva Edison 1847-1931) は1877年に蓄音機、1879年に白熱電灯を発明。

 この研究の過程で彼は白熱電球の内面に黒い微粒子が付着する原因を調べ加熱された金属物質からは熱電子が放出されるという、いわゆる「エディソン効果」を発見した

 右図のように電球の中に1枚の金属板を封入して検流計を接続し、フィラメント電源のプラス側に繋ぐと針が振れるがマイナス側では振れないという現象によってフィラメントから熱電子が放出されていることを確認出きる。

 
 2極真空管
  
J.A.フレミング (ロンドン大学教授

 1904年 マルコーニ無線電信会社の顧問でもあったフレミングは当時無線受信に使用されていたコヒーラー検波器の不安定な動作に悩まされていたが、エディソン効果の利用を思いつき、2極管を発明した。

 最初は白熱電球の中に小さな金属片を封入したものだったが、フィラメントの周囲を囲むような円筒状の形に改良し、陽極とした。

 フレミング管(Fieming Valve)と称し、マルコーニ無線電信会社で生産され、無線電信の受信に使用された。
マルコーニ (Marchese Guglielmo Marconi 1874-1937)

 イタリアの電気技術者で無線電信を初めて実用化した功労者である。

 1897年 マルコーニ無線会社をロンドンで創立。
 1901年 大西洋を隔てての通信に成功したが、事業化に際しては当時の海底電信事業者から激しい抵抗を受けた。

 船舶通信に特に力を入れ、対船舶、船舶対船舶の通信事業を独占した。

 大西洋上で氷山に衝突しで沈没した豪華客船タイタニック号にも無線電信機が装備されており、マルコーニ無線会社の二人の通信士が乗船勤務していた

 
実用に供することが可能となっていた無線通信機を積んでいたにも拘わらず活用するチャンスを逸し、あのような悲劇的な結末となってしまったのは残念なことであると思う。
コヒーラ検波器
 
無線電信の初期に使用された検波器で、ガラス管内の2極間にニッケル等の細片をゆるく入れておき、電磁波が到来するとその抵抗値が減少する性質を利用して検波作用を行わせる。

 動作が不安定だったので鉱石検波器や真空管が出現してからはまったく使用されなくなった。
検波回路
2極管検波(ダイオード検波)

 入力電圧が加わっていない状態では、初期電流が負荷抵抗Rd内を流れるので、プレートの電位はカソードよりも少し低くなっている。

 この状態の時、入力にAM(振幅)変調されている高周波信号が加わると、プレート電位がカソードに対してプラスになったときだけプレートに電流が流れる。

 負荷抵抗に表われたプラス側の信号は高周波成分を含んでいるが、Rdに並列につながれているバイパス・コンデンサーCdにより取り除かれ、信号出力には元の信号と同じ信号が出て来る。

3極真空管
ド・フォレスト (Lee de Forest) (1873−1961)  アメリカの電気技術者)
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903年頃から、空中線から得られる微弱な信号をどのようにして増幅するかという問題に取り組み始めた
 1906年 陰極(カソード)、陽極(プレート)のほかに第三の電極を持つ真空管を製作した。
 最初に作った3極真空管は2極真空管の外部に電極を置き、2極管を包むような円筒形の形をしたものであった。
後には管の中に入れるようにし、第三の電極も陽極と同じく金属片であったが(左図参照)、最終的には現在のように陰極と陽極の中間に置く構造となった。

特性
 グリッドはカソードに近いので、電子を抑える力はプレートよりも強い。したがってプレートにプラスの電圧を与えても、グリッドに大きなマイナスの電圧を加えておけばプレートには電流が流れない。

 グリッドのマイナス電圧を低くすると電子を抑える力が弱くなり、グリッドの網目をくぐって電子が流れる。即ちプレート電流が流れる。

3極真空管はプレート電圧を一定にしておいてグリッド電圧を変化させるとプレート電流が変わると言う性質を持つ(増幅作用)。
バイアス電圧の与え方
 3極真空管のグリッド電圧としてC電源は特別には設けず、B電源の一部を使用する。

カソードとグリッドの間にカソード抵抗Rkを挿入すると、プレート電流によってグリッドはカソードの電位よりも低い値となる。

Ckは高い方の増幅度の低下を防ぐためである
グリッド検波回路
 ストレート受信機にはグリッド検波回路が多く使われているが、この回路の動作も中学生当時、理解出来なかったものの一つである。
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 3極真空管のグリッドを2極管のプレートと考えれば2極真空管の動作と同じである。

検波された電圧はRgの両端に現れ、高周波成分はCgによってバイパスされて音声信号となる。したがってグリッドには検波された音声電圧と、検波によって生じた直流電圧(負電圧)が加わっている。

 この直流電圧がバイアス電圧となり、グリッドの音声電圧は増幅されてプレート側に出力される。
再生グリッド検波回路

L3   再生コイル
MC  ミゼットバリコン
Rf   高周波フィルター
Rfがないと高周波信号はCpでバイパスされてしまい、L3に電流が流れなくなる。
部品としては高周波チョーク(4mH)が適しているが、実用上は10KΩ程度の抵抗器でよい。
 再生コイルL3は入力同調コイルL1、L2と同じボビンに巻かれているので、プレート側に現れた高周波電圧がL2に誘起される。このときL2に現れる電圧の位相をアンテナ側の入力信号と同じ位相(正帰還)にすれば、グリッドに加わる電圧は再生コイルがない場合に比べて大きくなり感度が良くなる。
ただしあまり感度を上げ過ぎると発振してしまい、高周波増幅がついていないラジオの場合には、入力の同調回路を通じて逆に外部へ放出され、近隣の受信機に妨害を与える。

 学生時代に下宿していた家で、夜になるとラジオのボリュームをいっぱいにして聴いているのがうるさくてたまらず、直接言うわけにもいかないので、自作の受信機をその周波数に合わせてわざと発振させる。
自分のラジオはもちろん「ピーピーガーガー」やり始めるが、下の受信機も同じように「ピーピー」と鳴る。
「おかしいな」と言いながらラジオのスイッチを切っていた家主の顔が目に浮かんで来る度に、申し訳ないことをしたという後悔の念しきりである。