現金に手を出すな(ラストシーン)

 1954年のフランス映画、主役はジャン・ギャバン。どこかの空港で5000万フラン相当の金塊を強奪し隠し持っていたが、コンビを組んでいる20年来の仲間がふと口をすべらしたことからその金塊を巡って事件が展開することになる。いかつい容貌の鋭い目付き、渋い声、レストランで食事をしている様子はどこかの紳士としか見えないが、しかしその奥に何とはなしに感じさせられる不気味さと凄み、そして美人の愛人にぞっこん惚れられているらしい役柄がギャバンその人自身であるかのように錯覚させられてしまうのである。

 殆どが暗い夜での白黒画面で、淡々とした画面の進行はジャン・ギャバンの魅力を十分に引き出して余りある作品となっているようである。一時期流行ったジュークボックスにギャバンがコインを入れてかける「現金に手を出すな」のテーマ音楽はハーモニカなのだろうか、低く長く引き摺るようなメロディは哀調を帯びていながら一種えもいわれない退廃感や倦怠感がある。

 都市を支配化において敵対するギャング団と大立ち回りをするというギャングではない。「鬼平」流に言えば信頼の置ける二三人の仲間と組んで仕事をする一人働きのギャングなのである。そして老いも近づいて来たので、大きな仕事を最後にそろそろ足を洗い、静かな生活に入ろうかと考えているそのような時に、隠し持っていた金塊があるのを付き合いのあるギャング仲間に嗅ぎ付けられ、金塊の在処を聞き出そうとする彼らに、マックス(ジャン・ギャバン)と20年コンビを組んでいる仲間のリトロを拉致されてしまった。

 リトロの口の軽さに腹を立てコンビを組んだことを後悔するが、友情のために金塊と引き換えにリトロを返すと言う取引の申し出に応ずる。親しい仲間に応援を頼み、機関銃を持ち出して出かけるとこころは、さすがにギャングらしい凄みが伝わって来る。取引が終わりリトロは無事帰って来たが、金塊を積んで逃げていく相手の車は銃撃戦で炎上してしまい、結局金塊を取り戻すことは出来なかった。

 夜のパリの郊外で炎を上げて燃えている自動車から金塊を取り出そうとするが、そばを通りかかる車があったために犯行がばれるのを恐れて諦め引き返す。そのあと愛人を連れて行き付けのレストランに行くと,顔見知りの遊び仲間が自分たちも顔を知っているギャングの犯行についてしきりに話を持ちかけるが、そ知らぬ態で軽くあしらう。

 大金をなくしてしまった悔しさ無念さを微塵もあらわさず、いつものとおり、店の片隅においてあるジュークボックスに歩み寄り、コインを入れてレコードを鳴らす。その直前に銃撃戦の時に打たれ入院していたリトロが死んだことを知らされるが、「現金に手を出すな」のメロディが流れる中、若い愛人と食事を始める前のしばらくの間、じっと幾ばくかの感傷に浸っている淋しげな様子にたまらない魅力を感じるのである。(現金に手を出すな)(00/11/27)

(マディソン郡の橋)