タクシードライバー(ラストシーン)

 トラビスの運転するタクシーのフロントガラスに、ニューヨークの夜の風景、ネオンや建物が次から次へと写っては消え,消えてはまた写し出されている。1976年のこの映画は、繁栄を誇ったアメリカ社会にもベトナム戦争の後遺症からか退廃の影が忍び寄り始め、麻薬、暴力、殺人の街となりつつある大都会の夜を感じさせるシーンが数分間続いて終りとなる。

 トラビスは海兵隊を除隊したあと、夜間勤務専門のタクシー運転手になる。屈折した正義感と奇妙な潔癖感の持ち主である。ハーレムに行くことも気にせずに稼ぎまくるが、毎夜目にする不潔な街の環境、腐敗の様子に激しい憤りを覚え、日記に書き付ける。

 そのような時、街中で白いスーツを着た清潔な感じのするベッツイを見かけ、彼女の勤めている大統領候補者の選挙事務所に押しかけて行き交際を申し込む。1回目は食事をし、2回目には映画に誘ったまではよかったが、行った先がポルノ映画館だったために彼女の不興を買い、それからは電話にも出なくなってしまった。

 失恋したトラビスは持ち前の正義感から世の中の腐敗を正すべきだと考えたのか、拳銃を買い入れて射撃の練習所に通い、身体を鍛えることに熱中する。外出する時は拳銃で武装していたが、あるとき立ち寄った食料品店に黒人の強盗が押し入ったのを発見し射殺してしまう。次にはなぜか分からないが、街頭演説をしている大統領候補者を暗殺しようとして発見され逃亡する。

 同じ日の夜、以前彼のタクシーに救いを求めて乗ろうとした12歳の売春婦アイリスのいる売春宿に押しかけ、屯していた用心棒たちを撃ち殺してしまう。彼自身も重症を負うが、回復後元の職場に復帰する。新聞は彼の行為を暴力団からアイリスを救い出した英雄として誉め称えた。

 ある日、かつての恋人ベッツイが故意か偶然か彼の車の客となった。タクシーの中で彼に話し掛ける彼女に対して何か悟りきったような淋しげな笑みで返事をするトラビスの、若干ニヒルな感じのする表情がいい。やがて彼女の家に着き、料金を払おうとするベッツイに対して、「じゃーな」と言って金を受け取らずに去って行くシーンに、思わずも少々の小気味良さを覚えさせられてしまうのである。(タクシードライバー)(00/11/17)

(誰が為に鐘は鳴る)