地下室のメロディー(ラストシーン)

 プールの底に沈んでいた鞄の口が開いて、無制限とも思われる数の紙幣が次から次へと水上に浮き上がって来て、やがてプール全体の表面全体を覆い尽くそうとしている。綿密な計画を立てて首尾良くカジノの金庫倉庫から強奪した10億フランの紙幣なのである。プールサイドのテーブルに腰掛けてなす術もなく呆然とそれを見つめているのはジャン・ギャバン扮する強盗の首班シャルル。もう一人プールサイドに寝そべって予想外の展開にしぶい表情を見せているのは、刑務所に居るときに知り合った若いニヒルな若者のフランシス(アラン・ドロン)である。

 シャルルとフランシスの二人が身の危険を感じ、奪った金を持って高飛びしようとホテルで待ち合わせした。しかしその場所に刑事達がいて被害者のカジノの経営者から事情聴取をしている。唯一の手がかりは札束を詰め込んだカバンのデザインだけである。それをそばで聞いていたフランシスは隠し場所に困り、手に持っていたカバンを咄嗟にプールの中に沈めてしまったのである。プールの底なら誰も気付くまいと思ったのだ。しかしどういうはずみかカバンの蓋が開いてしまった。

思わぬ成り行きに途方に暮れている二人の心中を察すると滑稽ではあるがまた気の毒だと同情もしたくなる。しかし強盗犯人に同情するてはないだろうと冷たく突き離すとして、なによりもジヤン・ギャバンの風格あるギャングぶりに何とも言えない風格があり、思わず引き込まれてしまう。「大いなる幻影」の空軍中尉を演じたのもギャバンだが、まだ若い時代の彼の風貌は何となく馴染み難い気がする。ギャバンといえばギャングの親分のような雰囲気を醸し出している50才を過ぎた渋みのある顔つきのギャバンでなければならないと思うのである。

 刑務所から出所して来た時、彼を待っていた妻は南の方へ行って小さなホテルを買い、そこで老後を送りたいというが、そんなちっぽけな夢など御免だ、もっと大きな仕事をやり大金を稼ぐのだと言って、カジノを襲うことを計画する。計画そのものは成功して完全犯罪なるかと思わせたのだが、予期せぬどんでん返しが待っていた。人生そんなに良いことばかりはありませんよという教訓劇と見るか、あるいは単なる娯楽劇として滑稽ともいえるラストシーンを楽しめば良いのか私には分からない。(地下室のメロディ)(00/09/08)

(現金に身体を張れ)