現金に身体を張れ(ラストシーン)

 空港の夜空に舞い上がった札束。

 機内に積み込む荷物の荷物運搬車が、走って来た子犬を避けようとして急カーブを切ったとき、積んでいたケースの一つが転げ落ちてしまった。そしてケースの蓋が開き、ぎっしり詰め込まれていた紙幣が、ジェットエンジンからの風にあおられて次から次へと空中に舞い上がって行く。完全犯罪がまさに完成しようとしている最後の瞬間に起こったアクシデントなのだ。搭乗前にこの一部始終をみていた主犯のジョニーは飛行機に乗らずにその場を立ち去ろうとするが、事態に気付いた警官が近づいて来るのを見て全てを諦め、恋人のフェイに「無駄だよ」と言って逃げるのを止めて立ち尽くしている。拳銃を手にした警官二人の姿がクローズアップされる。悲哀感を覚えるラストーシーンである。

 刑務所を出所したジョニーは競馬場の馬券売場から売上金を強奪する計画を立てる。売り場係り、競馬場内のバーテンダー、それに警官一人が仲間で、その他に銃の腕のいい人間と、腕っ節の強い人間の二人を雇って騒ぎを引き起こし、其のドサクサ騒ぎの間にまんまと売上金を強奪する事に成功するのであるが、最後の土壇場でどんでん返しが待っていたということである。

 奪った現金を機内に持ち込もうとするが、紙幣を詰め込んだケースの大きさが規定の大きさより大きく、係り員に機内持ち込みを拒否されてしまったのがけちのつき始めとなった。

 風にあおられて広い滑走路の上に舞い上がった紙幣が、空港の照明に照らされて白くきらりと光り、ひらりひらりと飛んで行くシーンは、勿体無いという感覚よりも壮絶といった感じである。夜空の黒と紙幣の白さと、それに加えての照明の光は、モノクロ映画でしか表現する事の出来ない感性ではないだろうか。「地下室のメロディ」で感じた一種の滑稽さはここにはない。夜空の中で風にあおられ、現れては消えて行く紙幣の有様を見ていると、やりきれなさと悲しさの混じった淋しさを思わず覚えてしまうのであるが・・・・・・・・(現金に身体を張れ)(00/09/12)

(地の果てを行く)