小学唱歌集(文部省音楽取調掛)初編

 明治14年(1881)、文部省音楽取調掛長の井沢修二によって編纂された初めての唱歌集。

 全部で33の唱歌が掲載されているが、初めの12曲は唱歌というよりは、音階の練習のために、ドレミ・・・・の代わりに詞をつけたに過ぎないようなものとなっている。

 初めて西洋音楽の音階に接したのであるから、どうやって始めたらよいのか大いに悩んだのであろう。
          
表表紙の裏側 裏表紙の裏側
                    
                  
かをれ
 1.かおれ。におへ。そのうのさくら。     3.まねけ。なびけ。野はらのすすき。
 
2.とまれ。やどれ。ちぐさのほたる。     4.なけよ。立てよ。かわ瀬乃ちどり。
春山
 はるやまに。立つかすみ。あきやまに。わたるかり。
    さくらにも。もみぢにも。きぬきする。ここちして。
あがれ
 1.あがれ、あがれ、広野のひばり、
 
2.のぼれ、のぼれ、川瀬の若鮎。
いはへ
 1.いわえ。いわえ。きみが代いわえ。
 2.志げれ。志げれ。ふたばの小松。
千代に
 1.ちよに。ちよに。、千代ませきみは。
 2.いませ。いませ。わが君ちよに。
和かの浦
 1.わかの浦和に、夕志おみちくれば、
 2.きしのむら鶴、あし辺に鳴きわたる。
春は花見
 1.はるは。はな見。みよし野。おむろ。
 2.あきは。つきみ。さらしな。をくら。

1.うぐいす。きなけ。うめさく。そのに。
 2.かりがね。わたれ。霧たつ。そらに。
野辺に
 1.野辺に。なびく。ちぐさは。四方の。民の。まごころ。
 2.はまに。あまる。まさごは。君の。みよの。かずなり。
10 春風
 1.春風。そよふく。やよひのあした。あき風。みにしむ。むつきのゆふべ。
 2.弥生は。野山の。はなさく。さかり。はつきは。みそらの。つきすむ夜ごろ。
11 桜紅葉
 1.春見に。ゆきませ。芳野の桜。あきみて。つげませ。龍田のもみぢ。
 2.よし野は。さくらの。花さくみやま。たつたは。紅葉のちりしくながれ。
12 花さく春
 1.花さく。はるの。あしたのけしき。かおる。雲の。たつここちして。
 2.あき萩。をばな。はなさきみだれ。もとも。すゑも。露みちにけり。
13 見わたせば
 1.見わたせば。あおやなぎ。花桜。こきまぜて。みやこには。みちもせに。
      春の錦をぞ。さほひめの おりなして。ふるあめに そめにける。

 2.見わたせば やまべには。をのへにそ ふもとにも。うすきこき。
      もみぢはの。あきの錦をぞ。たつたびめ。おりかけて つゆ霜に。ちらしける。
14 松の木かげ
 
1.松の木かげに。たちよれば。ちとせのみどりぞ。身にはしむ。
      梅がえかざしに。さしつれ。、はるの雪こそ。ふりかゝれ。

 
2.うめのはながさ。さしつれば。かしらに春の。ゆき積もり。
      鶴のはごろも。かさぬれば。あきの霜こそ。身にはおけ。

15 春のやよい
 
1.春のやよいのあけぼのに。四方のやまべを。見わたせば。
      はなさかりかも。しらくもの。かからぬみねこそ。なかりけれ。

 
2.はなたちばなも。におうなら。軒のあやめも。かおるなり。
      ゆうぐれさまの。さみだれに。やまほととぎす。なのるなり。
 3.秋のはじめに。なりぬれば。ことしもなかばは。すぎにけり。
      わがよふけゆく。月かげの。かたぶくみるこそ。あわれなれ。

 
4.冬の夜ざむの。あさぼらけ。ちぎりし山路は。ゆきふかし。
      こころのあとは。つかねども。おもいやるこそ。あわれなれ。
16 わが日の本
 
1.わがひのもとの。あさぼらけ。かすめる日かげ。あおぎみて。
      もろこしびとも。高麗びとも。春たつきょうをば。しりぬべし。

 
2.雲間にさけぶ。ほととぎす。かきねににおう。うつぎばな。
      夏来にけりと、あめつちに、あらそいつぐる、花ととり。
 3.きぬたのひびき。身にしみて。とこよのかりも。わたるなり。
      やまともろこし、おしなべて、おなじあわれの、あきの風。

 
4.まどうつあられ。にわのしも。ふもとのおちば。みねのゆき。
      みやこのうちも。やまざとも。ひとつにさゆる。ふゆのそら。
             (15と同譜
17 蝶 々
 
1.ちょうちょうちょうちょう。菜の葉にとまれ。なのはにあいたら。桜にとまれ。
      さくらの花の。さかゆる御世に。とまれよあそべ。あそべよとまれ。

 
2.おきよおきよ。ねぐらのすずめ。朝日のひかりの。さしこぬさきに。
      ねぐらをいでて。こずえにとまり。あそべよすずめ。うたえよすずめ。
18 うつくしき
 
1.うつくしき。わが子やいづこ。うつくしき。わがかみの子は。
      ゆみとりて。君のみさきに。いさみたちて。わかれゆきにけり。

 
2.うつくしき。わが子やいづこ。うつくしきわがなかの子は。
      太刀帯て。君のみもとに。いさみたちて。わかれゆきにけり。
 3.うつくしき。我が子やいづこ。うつくしき。わがすゑの子は。
      ほことりて。きみのみあとに。いさみたちて。わかれゆきにけり。
19 閨の板戸
 
ねやのいたどの、あけゆく空に、あさ日のかげのさしそめぬれば、
 ねぐらをいづる百八十鳥は、霞のうちに友よびかはし、

 
ゆめみるてふもとくおきいでて、むれつつ花にまひあそぶなり、
 あさいねする身のそのおこたりを、いさむるさまなる春のあけぼの。
21 若 紫
 
1.わかむらさきの。めもはるかなる。武蔵野の。
      かすみのおく。わけつ丶つむ。初若菜。
 2.若菜はなにぞ。すヾしろすヾな。ほとけの座。
      はこべらせり。なづなに五行。なヽつなり。

 3.
なヽつの宝。それよりことに。得がたきは。
      雪消のひま。尋ねてつむ。わかななり。
22 ねむれよ子
 
1.ねむれよ子。よくねるちごは。ちゝのみの。
      父のおほせや。まもるらん。ねむれよ子。
 2.ねむれよ子。よくねるちごは。はゝそばの。
      母のなさけや。したふらん。ねむれよこ。

 3.
ねむれよこ、よくねておきて、ちゝはゝの。
      かはらぬみ顔。をがみませ。ねむれよこ。
23 君が代
 
1.君が代は。ちよにやちよに。さざれいしの。
      巌となりて。こけのむすまで。
         うごきなく。常盤かきはに。かぎりもあらじ。
 2.きみがよは。千尋の底の。さざれいしの。
      鵜のゐる磯と。あらはるゝまで。

 
       かぎりなき。みよの栄を。ほぎたてまつる。
24 思ひいづれば
 
1.おもひいづれば。三年のむかし。 わかれしその日。わがちゝはゝの。
      かしらなでつゝ。まさきくあれと。いひしおもわの。したはしきかな。
 2.あしたになれば。かどおしひらき。日数よみつゝ
。ちゝまちまさむ。
      わがおもひごは。ことなしはてゝ。はやいつしかも。かへり来なんと。
 3.ゆふべになれば。床うちはらい。 およびをりつゝ。母まちまさん。
      わがおもひごは。事なしはてゝ。はやいつしかも。かへりこなんと。
 4.あしたになれば。かどおしひらき。 ゆふべになれば。とこうちはらひ。
      父ましまさん。母まちまさん。はやく帰らん。もとの国べに。

25 薫りにしらる
 
1.かをりに志らるゝ。花さく御園。霞にかくるゝ。鳥なくはやし。
      君が代いはひて。幾春までも。かをれやかをれや。うたへやうたへ。
 2.つきかげてりそふ。野中の清水。
もみぢばにほへる。外山のふもと。
      きみが代たえせず。 いく秋までも。てらせやてらせや。にほへやにほへ。

26 隅田川
 
1.すみだがはらの。あさぼらけ。雲もかすみも。かをるなり。
      水のまにまに。ふねうけて。花にあそばむ。ちらぬまに。
 2.隅田川原の。あきの夜は。
水もみそらも。すみわたる。
      かぜのまにまに。ふねうけて。月にあそばん。夜もすがら。
 3.すみだがはらの。ふゆのそら。よは白妙に。うづもれて。
      木々のことごと。はなさきぬ。ゆきにあそばん。消えぬまに。

27 富士山
 
1.ふもとに雲ぞ。かゝりける。高嶺にゆきぞ。つもりたる。
      はだへは雪。ころもはくも。そのゆきくもを。よそひたる。
       ふじてふやまの。みわたしに。しくものなし。にるもなし。
 2.
外国人も。あふぐなり。わがくに人も。ほこるなり。
      照る日のかげ。そらゆくつき。つきひとともに。かがやきて。
       富士てふ山の。みわたしに。しくものなし。にるもなし。
28 おぼろ
 
1.おぼろににほふ。夕づき夜。さかりににほふ。ももさくら。
      のどかにて。のどけき御代の。楽しみは。
       花さくかげの。このまとゐ。このうたげ。
 2.
千草にすだく。むしの声。をぎの葉そよぐ。風のおと。
      身にしみて。眼に見る物も。きく物も。
       あはれをそふる。あきの夜や。つきのよや。
29 雨露
 
1.雨露におほみやは。あれはてにけり。みめぐみに。民草は。うるほひにけり。
      かくてこそ。今の世も。かまどのけぶり。み空にも。あまるまで。たちみちぬらめ。
 2.
飢えこゞえ。なきまどふ。民もやあると。身にかへて。かしこくもおもほすあたり。
      あられうつ。冬の夜に。ぬぎたまはせる。大御衣の。あつきその。御ここゝあはれ。
30 玉の宮居
 
1.玉のみやゐは。あれはてゝ。雨さへ露さへ。いとしげれど
      民のかまどの。にぎはひは。たつ烟にぞ。あらはれにける。
 2.
冬の夜さむの。月さえて。隙もるかぜさへ。身をきるばかり。
      民をおもほす。みこゝろに。大御衣や。ぬがせたまひし
31 大和撫子
 
1.やまとなでしこ。さまざまに。おのがむきむき。さきぬとも。
      おほしたてゝし。ちちははの。底のをしへに。たがふなよ。
 2.
野辺の千草の。いろいろに。おのがさまざま。さきぬとも。
      生したてゝし。あめつちの。つゆのめぐみを。わするなよ。
32 五常の歌
 
1.野辺のくさ木も。雨露の。めぐみにそだつ。さまみれば。
      仁てふものは。よのなかの。ひとのこころの。命なりけり。
 2.
飛騨の工が。うつ墨に。曲もなほる。さまみれば。
      義といふものは。世の中の。人のこゝろの。条理なり
 3.歳像ほかに。あらはれて。謹慎みたる。さまみれば。
      礼てふものは。世の中の。ひとのこころの。掟なり。
 4.神の蔵せる。秘事も。さとり得らるゝ。さまみれば。
      智といふものは。世の中の。人のこころの宝なり。
 5.月日と共に。あめつちの。循環たがはぬ。さまみれば。
      信てふものは。世の中の。人のこころの。守りなり。

33 五倫の歌
 
  父子親あり。君臣義あり。
   夫婦別あり。長幼序
あり。
   朋友信あり。
(この項「唱歌集初編」)