新宿風月堂(店内)

 過日、上京のチャンスの折り、何十年ぶりかで風月堂が存在したとおぼしき場所に立ってみた。ちょうど夜の7時頃であったが、あまりの変貌振りに全く驚かされてしまった。当時は殆どの建物はせいぜいが3階止まりで、見上げるとそれでも星の瞬きを確認することが出来た。しかし今はすべてが10階建て位のビルとなっており、暗い夜空は遠くの方までけばけばしいネオンや照明の灯りで彩られているように感じられた。
 
 そしてそれらしい店構えからしてここが風月の跡地かと推定はしてみたが、はっきりそれと特定することは出来なかった。閉鎖されてからすでに二十数年も経っているのであり、それも無理からぬこととひとり納得したのである。

 時々当時を振り返ってみることがあるが、不思議と店構え、店内の様子などを生々しく思い浮かべることが出来る。しかしわずかではあるが数葉の写真を入手することが出来、あらためて仔細に眺めてみると私の抱いていたイメージとかなり違う面もあるようである。

 以下の写真類は勿論人物が主になっているが、当時の風月堂の様子を窺い知る資料として背景等に注目したいと思う。当然顔見知りの人もいるし、そうでない人もいるが今はそれは問わないこととしたい。


昭和33年(1958年)正月 風月堂の正面

ガラス張りのドアを押して入るとすぐ前にケーキが入っているガラスケースがあった。



正面から見て左側の壁を背景にして入り口の方から撮影されている



上と同じく正面より見て左側の壁が背景になっているが、上の写真よりもさらに奥行きが深く写っている。奥にコーナーが見えるが、この右手が奥の壁面でスピーカーが埋め込まれていた。


正面より見て左側の方からの撮影。後方に見える斜めのバーは2階への階段の手すりである。

客待ちのウエイトレスはこの階段のたもとに立っていた。


スピーカが埋め込まれている奥の壁面から入り口の方へ向けての撮影。正面がガラス張りになっている様子が見て取れる

左上に突き出ている棚状の張り出しは2階の張り出し部分である。この直下に厨房、LPレコードの棚、ガラスケース、レジなどがあった。


上の写真の2階張り出し部分の直下にあった厨房。



 先日、三越南会館の前に立ってみた。

 右の写真のような「風月堂」の名前の入った銘版を見ることが出来た。

 先頭の写真の位置が正確にこの場所なのかはっきりとは分からなかったが、仕事を終えて盛り場の雑踏へとガラス戸を押して店から出たことなどが一度に記憶の中に去来したのである。

(エピローグ)