風月堂(エピローグ)

 私の風月堂もそろそろ終わりに近づいて来たようである。
 その後少々調べてみたところ、風月堂の跡地は現在は三越南館の一部になっているということが分かったので、夏が過ぎ、当時で言えば丁度前期の学年試験が終わった頃の季節、確認のため再び尋ねてみた。
 中央口を出て交差点を一つ過ぎた右側に位置していたと記憶していたのであるが、実際に南館にたどりつくまでにはもう一つ交差点を越さなければならなかった。横山さんに「明日は"らんぶる"に行って温度を調べて来てくれ」と言われたその「らんぶる」は、当時、道路の向う側右斜めの方向にあったが、現在も変らずにそのままの場所にあるということなので交差点一つ過ぎてというのは私の記憶違いなのであろう。

 写真で見る木の向うの位置あたりにガラス張りのドアがあった筈であるが、しかしあまりにも変ってしまっていて当時の面影はどこにも見出すことが出来なかった。

 ある日の夜、激しい雷雨のため停電し、冷房が切れて室内の温度がぐんぐん上昇し、たまらずに2階建ての屋上に上って下を歩いている人たちをなんとはなしに眺めていたことがあった。その場所というよりその空間もなくなり、周囲すべてが10階位のビルに変っている。

 閉店時間近く、仕事を終えて雑然とした盛り場の雑踏の中を新宿駅の中央改札口の方へ歩いて行くときに感じた漠然とした淋しさ、確とした目標があるわけではないのだが何かに手が届きそうでその何かになかなか届くことの出来そうにないもどかしさ等、それらの数々を思い出すことは出来るのだが、何十年かを経て現実に変わり果てた周辺の姿を目にした時、当然のことではあるが、あの青春時代は永久に帰って来ないのだということを痛切に知らされたように思えたのである。
 
 わずか一ヶ月ほどのアルバイト先に過ぎない風月堂になぜこれほどまでにこだわるのか自分でもよく分からないのであるが、結局は自分の過ごした時代に自分で作り上げたイメージを重ね合わせてみると、そのイメージは現在の自分の中でもやはり依然として大きな比重を占めて存在しているからであろうと考えるのである。(エピローグ)(01/01/30)