新宿風月堂(アルバイト) 

 40数年前の今ごろはちょうど風月堂で朝早くから夜遅くまで冷凍機のお守りをしていたころである。店内の様子や、経営者の横山夫妻、マネージャーの要さん、従業員のボーイ、ウエイトレス等数人の人達の顔などが今でもはっきりと目に浮かんで来る。みんなそれぞれの人生を歩んだことであろう。横山さんは一昨年亡くなったそうである。すべて夢幻ということなのであろうか。

店に入り、横山さんに紹介されてから早速現場の屋上に案内された。
2階への階段を上ってそのまま進んだところが奥の壁で、隅に鉄製の梯子が取り付けてあった。人間がやっと通り抜けることが出来る程度の四角形の穴が天井に開けられており、そこが屋上への唯一の出入り口である。屋上に出たところはすぐ小さな小屋になっており、そこが冷凍機室ということであった。機械はまだ搬入されておらず、冷凍機を載せる10センチぐらいの高さのコンクリート製のベッドと、その先には断面1メートル四方くらいのダクトが屋上を這っていた。建築工事が終わったばかりで周辺は雑然としていたが、それらを片付けるのが当面の仕事となった。現場監督という触れ込みだったが私のほかには誰もおらず、早い話は雑用係りというところである。

 2,3日して冷凍機が搬入された。据付工事の時は、会社の方からも何人か来て、あれをやれ何を持って来いの使い走りをやらされた。横柄な口をきくのがいて、ずいぶん頭にきたことが思い出される。

 いよいよ冷凍機が運転を始めると、騒がしかった風月堂の屋上もひっそりとなり、時々会社の人間が様子を見に来る以外は毎日モータの回転する音を聞いて一人で小屋で過ごすのが日課となった。
 
 毎朝9時頃に店に入り、冷凍機のスイッチを入れて機械が正常に運転するのを確認しコンプレッサーの入り口と出口の温度を測る。それから外気温と室内数カ所に置かれた温度計の温度を大体一時間半おきに測定して回るのが主な仕事になった。(アルバイト)(00/08/01)
(イタリア奇想曲)